( 敦賀蓮グッドエンド/付き合って2,3ヶ月 side 蓮 ) ふわふわと浮いているような意識がしっかりと浮上したのは腕の中の少女がもぞもぞと身動きをしたからだ。 肌寒くなったのか、眠りながら胸に擦り寄ってきたキョーコの肩に肌掛けを引き上げてその肩を抱いて眠ったのは明け 方近く。 そのまま二人で穏やかな眠りに沈んでいたのだが、どうやらキョーコはすっかり目を覚ましたらしい。 眠りの浅い蓮は隣でキョーコがシーツを身に纏うべくもぞもぞ身じろぐのに釣られてほぼ同時に覚醒したというわけだ。 しかし、彼女は寝顔や起き抜けのぼんやりとした状態を見られるのを極端に恥ずかしがる。 以前、ロケバスで膝枕をしてもらった時も、その無防備な寝顔にうっかり見とれていて起きぬけのキョーコに酷い悲鳴を 上げられたことがあった。 朝の爽やかな空気がそんな悲鳴を上げられたら台無しだ。 そこで蓮はキョーコを驚かせないよう暫く狸寝入りを決め込む事にした。 すると、きしりとベッドが微かに揺れる気配がして自分の顔に影が落ちるのが判った。 どうやらキョーコはこちらを覗き込んでいるらしい。 黙ったままだが、顔に視線が集中しているのを感じる。 落ち着かない… ただ眠った振りをするのがこんなに苦痛だとは… 我慢できなくなった蓮が目を開けようとした瞬間、キョーコの指が蓮の唇に触れて来た。 「柔らかい…」 ほぅ…と吐息を交えたような呟きに蓮は目を開けたい衝動を再びグッと堪える。 このままでいたらキョーコはどんな行動をとるのだろう? 好奇心に期待が混じり、蓮の心臓の鼓動が少しだけ早くなった。 「罪な唇…」 そう呟くのが聞こえる。 罪とはなんだ? キスをしたまま済し崩しにコトに及ぼうとしてしまうことを言っているのか? 深く互いの口内を味わうキスはおろか、触れ合うだけのキスも未経験だったキョーコは舌を絡めた大人のキスをしてや るだけで半分意識を飛ばしてしまう。 鼻で息をすればいいと教えたのだが、口を塞がれると反射的に息を止めてしまうらしく、酸欠になってしまうのだ。 肩で息をしながらぼんやりとした眼差しで蓮にもたれかかってくるキョーコにどうして何もしないでいられよう? その初々しい反応が蓮の男心をくすぐっているとも知らないキョーコは全く無自覚で、キスの後ベッドに押し倒されてい る現状にやっと意識がハッキリしてくると、酷いだのズルいだのといった言葉で蓮を責めるのである。 ( 罪なのは君のほうだ… ) 蓮は心の中でキョーコの呟きに反論する。 と、キョーコの指が蓮の唇をなぞってきた。 (!!) 何だ?そのいやらしい指の動きは!! 蓮の中に動揺が走る。 しかしキョーコは指で唇をなぞるだけでそれ以上は触れてこようとはしない。 焦れた蓮は寝返りを装ってキョーコの方に身体を向ける。 唇は誘うように少しだけ開いてみせた。 キョーコが身を乗り出す気配がする。 否が応でも蓮の中に期待が高まっていく。 すると… ちゅっ と軽い音を立てて瞼にキスが落とされ、 「おはようございます、敦賀さん…」 と優しく囁いたかと思うと次の瞬間、キョーコはベッドを降りて部屋を出て行ってしまった。 「なんだそれ!」 すぐさま目を開けた蓮は一瞬呆然としたかと思うとそのまま頭を抱え込む。 「君は俺を悶え死にさせる気か!?」 初心なキョーコに唇へのキスを求めるのは欲張りだったかもしれないが… キョーコのいなくなったベッドルームでまるで身代わりのように枕を抱えたまま暫く悶々とする蓮の姿があった。 End |