クーからの手紙 (2)



      ( 敦賀蓮グッドエンド/CMオンエア後 side キョーコ )





      「キョーコちゃん、エアメールが来てたよ」



      仕事を終えて戻ったキョーコを迎えた女将さんの第一声はそれだった。

      エアメールぅ? 私に? 一体誰が?

      外国人の知り合いなどキョーコにはとっさに思い浮かばない。

      外国経由のダイレクトメールか、それとも間違いではないのか…

      不審に思いながら差出人の名前を見た瞬間、キョーコは隣近所にまで轟くような悲鳴を上げた。






      ※※※※※※






      「蓮、次の仕事の入りまではまだ時間があるから少し休んでいかないか?」



      トーク番組の収録を終えて移動しようと歩き始めた蓮に慌てたようにマネージャーの社が声をかけた。



      「移動先で休んでも問題ないと思いますが…」

      「いや、それがキョーコちゃんも今日、この局で仕事があってもうじき来るはずなんだよね〜」



      なるほど。

      最近キョーコと社は毎朝メールでスケジュールの交換をしているらしい。

      確かに蓮のスケジュールを管理しているのは社だが、こういったことを恋人の蓮には言わないで何で社にだけ連絡する

      んだあの娘は…

      少しだけ蓮の周りの気温が下がる。



      「あ、あのほら、キョーコちゃんはお前の仕事の妨げにならないようにって気を使ってだな…」



      蓮の機嫌が悪くなるのを敏感に察知した社がフォローを入れてくる。

      その言い分も判らなくはない。

      だが、恋人に煩わされることを嫌がる男などそうはいない。

      遠慮が過ぎるとかえって頼られていないようで蓮としては何だか自分が情けなく思えてくる。

      すると、噂をすれば何とやら…通路を曲がってキョーコがこちらに向かってくるのが見えた。


      ( あちゃ〜! キョーコちゃんなんてタイミングで… )


      社は拗ねた蓮が大人げなく大魔王を降臨させることを阻止するため、場を和やかにしようと明るくキョーコに声をかけ

      ようとした。

      その瞬間、



      「つっつっつ、敦賀さぁぁぁぁぁん!!」

      「うわっ、キョ、キョーコちゃん、ちょっと待ってストップストップ!!」



      こちらの姿を確認したキョーコが闘牛のような勢いで突進してきたのである。



      「み、見て、見て下さい、アメリカから…父さんから、て…手紙が…」



      赤白青の三色で縁取られた封筒を大切そうに持ったキョーコは、蓮の胸に飛び込むとキラキラと目を輝かせて見上げ

      てくる。

      蓮はというと、先程までの不機嫌さが嘘のように柔らかい眼差しでキョーコを見つめている。


      ( 良かった…どうやら蓮の機嫌も直ったみたいだ… )


      社はホッと胸を撫で下ろす。

      それにしてもキョーコの口から父親の話なんて初めて聞いた。

      いやまて、何故キョーコは父親の手紙の事など蓮に報告してくるんだろう?

      蓮も何やら訳知り顔だ…


      ( も、もしかして、二人はもうお互いを両親に紹介するところまで進んでるわけ?! )


      社の頭の周りにクエスチョンマークが乱舞する。



      「あの、もしもし、ちょっとお二人さん…」



      事情の飲み込めない社はたまらず二人に声をかけた。






      ※※※※※※






      「何だ、キョーコちゃんの言うお父さんて、クーのことだったのか……」



      あのまま通路の真ん中で騒ぐわけにもいかず、局内のカフェテリアに場所を移すと社は二人の口から事の真相を聞かさ

      れることとなった。

      そういえば彼女は来日したクーに演技指導を受けて彼の息子を演じた事もあったっけ…

      たまたまその場に居合わせて度肝を抜かれた事を社は思い出した。



      「それで、父…いえ先生は親子の縁を切った覚えは無いと言ってくださって…」

      「父さんでいいんじゃないかな? 彼もそう呼ぶことを許してただろ?」



      蓮の言葉に照れくさそうに笑いながらキョーコこくんと頷く。



      「それで、キョーコちゃん手紙には何て?」



      好奇心が押えられない社が話の続きを促す。



      「はい、あの、父さんはアルマンディのCMも見てくださったようで…」

      「良かったって?」

      「はいっ!!」



      嬉しくてたまらないらしく、上気してばら色に染まるキョーコの頬が蓮と社の笑みを誘う。



      「それと、もしアメリカへ来るようなことがあったら敦賀さんと一緒に家を訪ねておいでって―…」



      ガシャン

      蓮がテーブルの上のグラスをひっくり返した。



      「おわっ蓮?!大丈夫か??」

      「す、すみません。ちょっと動揺して…」

      「ですよね、驚きますよね!まさか家においでなんて言われるなんて」



      蓮が驚いたのはそのことではないのだが、キョーコの勘違いに乗っかって知らん顔を決め込んた。



      「スゴイじゃないか二人とも、あのクーにそこまで気に入られるなんて!」



      社もキョーコと共に無邪気に喜んでいる。

      そう、あの家を二人で訪れるということが何を意味するのかは自分だけが知っていればいいことだ。

      蓮はスッと表情を引き締めるとキョーコと目を合わせて言った。



      「それじゃあ俺達二人とも、あの人に恥じないように頑張らないといけないね」



      蓮の言葉にキョーコの表情も引き締まる。

      そして、あの日彼女が演じたクオンの眼差しと共に、



      「はい!!」



      と力強い返事が返ってきた。


















      End







キョーコ編と言いつつその実はほとんど蓮の心情なんですが…
ショータローの両親といい、ヒズリファミリーといい、キョーコさんは
知らないうちに嫁入りを画策される運命にあるようですよ。




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2010 03 15 rewrite



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