ゆっくりしよう、ね



 

     ( 敦賀蓮グッドエンド/付き合って三ヶ月未満 )





      殺人的な忙しさの敦賀さんが久しぶりのオフを取れることになった。





      ダークムーンの撮影の昼食休憩中、この後敦賀さんがCM撮りで行くはずだったロケ地が天候不順で使えなくなりそう

      だと社さんの携帯に緊急連絡がかかってきた。



      「ごめんっ、先に食べちゃってて・・・」



      周りのスタッフや出演者に気を使ってか、席を立った社さんはスタジオの隅へ行くと、時折電話に向かって頭を下げな

      がら凄い勢いでスケジュール調整の電話をかけ始める。

      社さんみたいにクールでスマートな雰囲気の人でも咄嗟にそういう仕草をしてしまうというのが少しおかしかった。

      私と敦賀さんはお弁当をつつく手を止めてその様子を見守っていたのだけれど、



      「・・・大丈夫かな?」



      敦賀さんの表情が心配そうに曇る。

      急な予定の変更はスケジュールのぎゅうぎゅうに詰まった敦賀さんの場合、他の仕事との調整をつけるのが本当に

      大変なのだ。

      その管理と折衝をするのがマネージャーである社さんの仕事なのだけど、CMの仕事は手が込んだものだとドラマ

      並みに大掛かりで時間も人も拘束する訳で。

      少しばかり前、敦賀さんと私が競演したアルマンディのCMなどもまさにそう。

      映画のロケとなんら変わらないようなスタッフが揃い、予備日まで合わせると正味5日ものスケジュールが押さえられて

      いたのだ。

      その間に私はほんの数秒の、しかも目だけの演技の為に思い切りドツボに嵌まってしまって二日も撮影の予定を狂わ

      せるという事態を引き起こしてしまった。

      それがいかに現場のスタッフに負担を強いるかということを私は身をもって体験している。

      一日日程がずれるとなると他の作業に及ぼす影響がどれほど大きいか・・・

      思い出しただけで申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。

      その時、



      「連ーー!!」



      社さんが戻ってきた。

      心なしか足取りが軽く見えるのは気のせいかしら? ううん、むしろスキップしてるように見えるけど…目の錯覚??



      「どうなりました?」

      「うん、それが…」



      自分の仕事でもないのに私までごくりと息を飲んで社さんの言葉を待つ。



      「今回のCMはシリーズものだろ?その第一回目はロケで撮るはずだった訳だけど、向こうは天候が荒れまくってて

       ロケなんて到底無理だということで、監督がコンテ切り直してくれてロケのシーンは二回目以降の回想に組み込むこ

       とになった。おかげでロケの日程も上手くずらせたよ。それで…」



      社さんの声に少し緊張感が混じる。



      「一回目はスタジオ撮りに変更されることになった。でも何分急な事でスタジオをすぐに抑える事は無理らしい。

       だからその分も来週の頭に予定されていた二回目のスタジオ撮りの時に纏めて撮る事になったよ」



      うわっ何か凄く大変そう…



      「いいか、蓮。撮影と編集が同時進行で早朝から一日拘束になるから、かなりハードだぞ」

      「判りました」



      そっと隣を窺うと、ピシッと表情が引き締まって敦賀さんはプロの顔になっていた。



      「その代わりといっては何だが…」



      社さんがポンと敦賀さんの肩に手を置く。



      「明日は一日空いたから」

      「え?」



      意外そうな敦賀さんの顔。

      一日空くってことはオフ、つまりお休み………敦賀さん一日お休み取れるんだ!!



      「丸々一日休みが貰えるのってどのくらいぶりかなぁ…」



      そう言ってふわりと笑う敦賀さん。何だか見ている私まで自分の事のように嬉しくなる。

      はっ!そうと決まれば敦賀さんにはゆっくりと休んで欲しいわよね。この人ってば、滅茶苦茶忙しいのに満足に食事

      も摂らないんだから。

      あ、そうだ!そうよ、ご飯作りに行かせてもらおう!!

      アルマンディのCM撮影の競演以来、本当の本当に恋人同士になった敦賀さんと私。

      どちらかの仕事が終わるのを待って時々敦賀さんのマンションで過ごす事もあるけれど、私は学校があるし敦賀さんは

      忙しいしでゆっくりと過せたためしがない。

      たまには二人でのんびりしたいな…なんて思わなくもないけど、人に甘え慣れていない私は仕事が絡まないと敦賀さ

      んのマンションに行きたいとは中々言い出せなくて・・・

      だけどほらっ、今回はちょうど敦賀さんに休養を取らせるという名目が立つじゃない!!

      うん。我ながらナイスアイディアっ!!

      だとすれば思い立ったが吉日よ。即断・即決・即実行よ!!

      私は勢い込んで敦賀さんに詰め寄った。



      「キョーコちゃん。 その、今夜…」

      「敦賀さんっ!!この後是非、このワタクシめにご飯作りに行かせてくださいっっ!実は予てから試してみたいレシピが

       ありまして、敦賀さんに食していただき忌憚ない意見を聞かせていただきたく。因みにレシピは沢山あるので今晩の

       分と、宜しければ明日の朝食や昼食の分も作り置きさせていただくためにキッチンを使わせていただけるととっても、

       とぉ〜〜〜っても嬉しかったりするのですがぁぁっ!!」



      そこまで一息に捲し立てると、敦賀さんと社さんまでが目を点にしているのが見えた。

      そしてパチパチと何度か瞬きをすると、社さんが身体を捩るようにして激しく笑い始めた。

      何よ、私そんなに変なこと言った?? あれ?それより今、敦賀さん何か言いかけてなかった?



      「いやもう、キョーコちゃんはホント……ぷっ、く、くくく…」



      もう、何時まで笑ってるんですか!未緒モードで睨むと社さんが漸く笑いを引っ込めて言った。



      「そうだな。蓮、お前としては色々思う事もあるだろうけど、そうしてもらいなよ」



      何か微妙な含みを感じるんですが… 敦賀さんは?……チラッと表情を盗み見ると、うっ無表情……

      嫌だったのかな?こんなお節介みたいなこと。



      「頼むよキョーコちゃん。滅多に休みなんて取れないのに放っとくと連の奴、何も食べずに寝てる可能性があるから…」

      「俺は別に……」

      「いいや、そもそもお前ん家の冷蔵庫、飲み物しか入ってないじゃないか!どうせお前の事だ、オフの日に一人で

       わざわざ外出して飯食うなんてしないだろ!!だいたいそれで自己管理ができてるなんて思う方が間違ってる。

       それはただの自己過信に過ぎないよ。今まではそれで通用したかも知れないが事前にハードなスケジュールに

       なると判っていてキチンと休養を取らないでいるというのはプロ失格だ!」



      マネージャーとしてお仕事モードを発動させている社さんはかなりの強気だ。

      そもそも自分の健康を過信している敦賀さんにも問題はあるんだけど。

      プロ失格の一言を突きつけられた敦賀さんは流石に言葉に詰まって、しぶしぶ約束を取り付けられてしまい、

      かくして私は社さんから承った敦賀さんにしっかりご飯を食べさせるという特命の許、仕事上がりの敦賀さんにくっつい

      てマンションにお邪魔することになったのだった。






      ※※※※※※






      仕事とプライベートの両方でもう何度も入ったことのある敦賀さんのマンションは最早勝手知ったる何とやらで、ワン

      フロア一室のマンションのだだっ広い部屋の数々にも豪華な内装にも驚かなくなったけど……

      ………………

      …………

      ……今、私は違うことで硬直している。



      「キョーコちゃん」



      優しく私の名を呼んで敦賀さんが顔を寄せてくる。あっと思う間もなく唇が重なって吐息が優しく盗まれる。

      手に持っていた買い物袋が音を立てて床に落ちた。



      「んっっ」



      扉を開けた瞬間に抱き寄せられて、敦賀さんらしくない強引さでキスを仕掛けられる。

      触れられるだけ身体全体に熱が広がり、角度を変えて少しずつ深くなるそれは私の頭も心もとろとろに融かして…

      どうしよう、足から力が抜けていく。



      「ん……ぅ、ん」



      キスに慣れていない私は敦賀さんに満足に応えることも出来ないままそのキスに翻弄されるだけで。

      唇が離れた時にはもう自分の身体を支えていられず、くたりと敦賀さんの胸に凭れ掛かってしまう。

      そんな私の身体を抱きとめながら髪を撫でてくれる敦賀さん。

      きっと今、見上げたらとびっきりの神々スマイルが降ってくるに違いない。気配で判る。敦賀さんが笑顔を向けてくれて

      いること。

      ううっダメ、ダメよキョーコ。ここで流されたら!私は今夜は敦賀さんに食事を作りに来たの!ゆっくり休んで鋭気を養っ

      てもらうという使命を帯びているの。恋人として甘い時間を過すために来たんじゃないのよ!!

      何とか自分を励まして敦賀さんの腕から抜け出すと、



      「つ、敦賀さん、お腹空きません?空きましたよね!すぐご飯の支度しますね!!」



      何か言いたげな敦賀さんの視線を躱して落としたものを拾い上げるためにしゃがみこむ。

      あぁ結構散らばっちゃってる。卵割れてないよね…



      「いいよ、それは後でも」



      卵に伸ばした手を敦賀さんに制された。



      「いいえ、そんな訳には行きません!今日私はご飯を作りに来たんで…んん?」



      あ、あれ!?光が刺さってくる。笑顔がっ!敦賀さんの笑顔が毒吐き紳士スマイルになってる〜〜〜〜っっ!!

      ……………あのう…何か怒ってらっしゃいます?



      「食事は疲れを落としてサッパリしてから摂る方が美味しいと思うよ」



       まあそれは一理あるけど。



      「あ、はいじゃあ先にお風呂に入って…」

      「そうだね」



      私の言葉に敦賀さんの笑顔が一層深くなる。

      い、嫌な予感っっ。



      「それじゃ、先に風呂に入るとしようか」



      言うが早いか敦賀さんは私の身体を掬い上げる。いきなり抱き上げられたのに驚いてしがみつくと、敦賀さんは

      そのままさも当たり前のようにバスルームへ向かって歩き出す。

      ま、ま、ま・・・まさか、まさか私も一緒に入るんですか〜〜〜っっ!!!

      全身の血液が凄い勢いで巡りだして、私の顔は熟れたトマトのように真っ赤になった。






      ※※※※※※






       「こういうの好きだと思って」



      浴槽にお湯を張りながら放り込んだ入浴剤のおかげで呆れるほど広い湯船の中はふわふわの泡で一杯になってい

      た。

      嗚呼、憧れのバブルバス!!一人で入っているのなら身体がふやけるほど堪能するのに…



      「二人で入っても十分な余裕があると思うけど…」



       うぅ…怖い、穏やかな口調のままなのが殊更に。



       「どうしてそんなに隅っこにいるのかな?」



      浴槽の縁に肘をついてニッコリ紳士スマイルを向けてくる敦賀さんから少しでも距離を置こうと湯船の端の端に座っ

      た私は膝を抱えてぶくぶくと泡に埋まっている。

      それがどうしてかですと?そんなのハズカシイからに決まっているじゃない!!

      私はアナタのように本職のモデルが裸足で逃げ出すようなパーフェクトボディの持ち主とは違うのよ!!



      「今更そんな恥ずかしがらなくても…」



      う、……その、確かにお互いの裸はもう何度も目にしてはいる。だけど、え…えっちの時は私の場合意識が朦朧として

      ることが多いし、何より明りを落としてもらっているんだもの。一緒にお風呂に入るのとは恥ずかしさが違うのよ〜っ

      そ〜っと敦賀さんの表情を伺う。


      キュラキュラキュララ……


      い、痛い。紳士スマイルのキラキラ光線がちくりちくりと肌に刺さってくる。

      社さん曰く、



      「キョーコちゃんに関する事だと感情のコントロールが利かないみたいなんだ。蓮の奴」



      とおっしゃる通り。温和なフェミニストで定評のある敦賀さんが私に限っては出会った当初から怒りも不機嫌さも

      ビシバシぶつけてきて下さいましたので、それが特別なことだって気付くまで随分と時間がかかってしまった。

      さらに感情を覆い隠してしまう鉄面皮のおかげで気持ちの振り幅がとっても判り難かったけど、恐れ多くも恋人としての

      お付き合いが始まると、敦賀さんはいともあっさりその鉄面皮を脱ぎ捨てて、それまでも時折は見せてくれていた蕩け

      そうな神々スマイルもこっちの腰が引けるほど連発して下さって…

      そして所かまわず甘ゼリフ攻撃を発動させたかと思うと、ちょこちょこ細かく小さなヤキモチを焼いて拗ねてみせて下さる

      ので、表情の読めないまま地雷を踏んでいた頃と心臓への悪さはちっとも変わっていない気がするのよね。



      「キョーコちゃん」



      名前を呼ばれてハッとした。

      やだ、こんな状況でも私、思考の旅に出てた?

      俯いていた顔を上げると敦賀さんの瞳に悪戯っぽい光が閃くのが見えた。



      「じゃ、こうすれば…」



      思わず身構えようとした私の腕を素早く掴むとグイっと引っ張る。ひ、ひええええっっ



      「…恥ずかしくないね?」



      途中でくるりと身体の向きを変えられ、敦賀さんの胡坐の上に腰を下ろす形になった。

      いやいやいや、それは視線が合うことはないですけど…



      「うん?」



      そんなふうに聞かないで下さいよ! ああ、あ…あたってるんです!敦賀さんの胸が、腹筋が、私の背中にぴったりと。

      いやぁぁぁぁぁ〜っっ! これはこれでもの凄くハズカシイぃぃぃぃ!!!

      ところが敦賀さんはそんなこと意に介す風も無い。



      「それじゃ、このまま身体を洗おうか?」

      「!!!?」



      い、いけない、このまま敦賀さんのペースに持って行かれるのだけはっ! しっかりするのよキョーコ!!



      「じ、自分で洗えますから…」

      「遠慮しないで」

      「いいえ、自分で洗いたいんです!!」

      「そう………」



      あぁ、そんなあからさまな落胆の声を上げないでください〜〜っっ

      せ、背中くらいならお願いしても……いいえ、ダメだわ。

      それこそ敦賀さんの思うつぼ、なし崩しに流されてしまうに決まってるわ!!



      「じゃあ俺はマッサージをしてあげよう」



      は、はいぃぃ??

      躱しようの無いストレートな言葉に心臓が跳ね上がる。

      待って、待って、待って! 身体を洗われるよりそっちの方がいやぁぁぁ〜〜!!



      「大丈夫、身体の力を抜いて」



      そう言うと敦賀さんの手は私の首筋から肩にかけての筋肉を優しくほぐし始める。



      「俺達の仕事は見た目以上に緊張を強いられるからね」



      肌を滑る敦賀さんの指にはおかしな意図は感じられない。

      なんだ、本当にマッサージしてくれるだけなんだ…………

      …………………っって何よ? 今のは??

      まるで私ったらがっかりしてるみたいじゃない!

      敦賀さんはフェミニストだもの、無理やり変なことなんてしないわよ!

      安心していいんだと思ったらほうっと身体から力が抜けた。

      次に敦賀さんは私の手を取り丹念なマッサージを施していく。

      長い指が私の指先から手のひら、そして甲とくまなく触れる。時に強く、時に優しく。

      どうしてこんなに上手なんだろう……あぁ極楽極楽ぅ〜〜〜〜

      気持ち良さにうっとりしているとふいに片方の膝裏に手が入れられ足を高く持ち上げられた。



      「今度は足ね」

      「え? ええええええ??」



      いやいやいや、ちょっと待って、足って!そんなふうに膝を胸に寄せられるととんでもない格好になるんですがぁ!!

      乳白色のお湯と泡のおかげで見えてないけど、見えてはいないだろうけどぉ…

      動揺する私をよそに敦賀さんの様子は他のマッサージの時と変わらぬ調子で足首や脹脛を丁寧に揉んでくれる。

      それはやっぱりとても気持ちがいいのだけれど、なんでだろう? 私の胸の中にもやもやしたものが広がっていく。

      こんなふうに素肌でくっついでいるのに敦賀さんは何とも思わないのかな?

      私だけなの?さっきから口から心臓が飛び出しそうなほどドキドキしてるのは。

      矛盾しているのは判ってる。

      だけど一応お付き合いしているというのに何も感じてもらえないのも寂しいと思ってしまう。

      そりゃあ私は胸も小さいし、女性として魅力的な身体をしているとはとても言えないけど…

      敦賀さん、一体どんな顔してマッサージしてくれているの?振り向いて表情を窺いたい。



      「つるが、さっっ!!」



      名前を呼ぼうとして声が詰まった。

      膝を越えた敦賀さんの手がするりと腿の内側を撫でたのだ。



      「ここ、リンパの流れが集まっているの知ってる?」



      マッサージというより触れるか触れないかくらいの優しさで肌の上を敦賀さんの指が滑る。



      「ひゃぁ……っん」



      くすぐったくて変な声が出た。

      何?何なの?触れられているのは腿なのに、身体の奥に燻るような疼きを感じてじっとしていられない。

      膝を閉じたいけれどそうすると敦賀さんの手まで挟み込んでしまうことになる。

      それじゃまるで私が敦賀さんの手を離そうとしないみたいじゃない。

      嫌、そんなはしたない真似、死んだって嫌!!

      するすると腿を撫でる敦賀さんの手は止まらない。

      どうして?敦賀さん、私の反応を見て遊んでいるの?

      まさか今までの私の振る舞いで大魔王が降臨なさってるとか!?

      そう思ったら熱っていた肌にいきなり冷水を浴びせられたように一気に血の気が引いた。

      身体が自分の意思に反して震えてくる。

      ダメ、静まって!!怯えてるのが敦賀さんにばれちゃう!!

      すると背後で息を飲む気配がして足に触れていた手が離れ、代わりにぎゅっと抱きすくめられた。



      「ゴメン。俺、意地悪だったね」



      身体を反転させられ向かい合うともう一度抱きしめられる。

      安堵したせいでへなへなと身体から力が抜けた。



      「敦賀…さん?」



      どうして急にあんなこと……

      そう聞きたい気持ちを込めて敦賀さんを見つめると、はぁぁ…と、大きなため息をついて酷くバツが悪そうに敦賀さんが

      答えた。



      「せっかくオフが取れるっていうのにキミがまるで義務か何かのように俺のマンションに来て休養を取らせようとするから

       ちょっと拗ねた。それと…」

      「それと?」

      「キミの口から聞きたかったんだ……………その、……俺を、求めてくれる言葉を…」



      視線を逸らせてそう言う敦賀さんの顔が赤いのはお風呂に入っているからだけじゃないですよね。

      ふふ、滅多に見られないテレてる敦賀さんが可愛い。

      私、敦賀さんとするのが嫌なんじゃないんですよ、ただ自分のことが信じられなくて…

      貴方が私を好きだと言ってくれたことが今でも夢なんじゃないかと思ってしまうんだもの。

      だって貴方は誰もがこんな人が恋人だったなら…と願うような理想の人。

      いつか醒めてしまう夢にのめり込んでしまったら、ショータローの時以上に今度こそ私は立ち直れなくなるんじゃないか

      と怖くなってつい距離を置こうとしてしまう。

      さっき自分でも敦賀さんに何も感じてもらえないのは寂しいなんて思っていたのにね。

      この身勝手な恐怖心が敦賀さんを寂しくさせてしまうなら、私は勇気を出してもう一歩踏み出さなくちゃ。



      「敦賀さん…」



      顔を寄せ自分から敦賀さんに口付ける。

      そういえば私からキスするのだって初めてだ。



      「あの、敦賀さんが嫌じゃなかったらそ、その…今、ここで…」



      抱いてくださいという言葉は流石に恥ずかしくて口に出せないでいると、意を察した敦賀さんが蕩けそうな笑顔で

      微笑んでくれた。






      ※※※※※※






      敦賀さんの動きにあわせてちゃぷりと湯船に漣が立つ。

      座ったままで敦賀さんを受け入れた私の額に頬に沢山のキスが降らされる。

      いつもキスを交わすだけですぐ余裕をなくしてしまう私はこんなふうに敦賀さんの表情を良く見たことがなかった。

      伏目がちの眼差しが物凄く色っぽい。



      「敦賀さん、キレイ…」



      思わず口から出てしまった言葉に敦賀さんは軽く目を瞠る。

      そして、



      「それは俺の台詞」



      と囁くと唇をふさいでくる。

      同時に下から突き上げられて背筋を快感が駆け上った。

      なんだか今日の私は普段より敏感になっているみたいだ。

      耳朶を優しく噛まれる刺激に首がすくんだ。



      「あ、ぁんっ」



      湯舟の中でお湯の抵抗がある分ゆっくりとした動きで奥の奥まで愛される。

      いつもなら最初のうちは快感より苦しさが勝るのに、今日は敦賀さんと触れ合う部分全てが心地良くて。

      今まで心の奥に潜んでいた闇雲な恐怖心が私の身体を硬くして負担を強いていた事を知る。

      恐れるくらいなら目を開けて見るだけで良かったのだ、私を抱く恋人の姿を。

      汗の伝う肌も、切なげに寄せられた眉も、瞳の奥に燃える欲の色も、暗くして欲しいとせがんだ闇の中で見過ごして

      きたものばかり。

      こんなに美しい人が私を好きでいてくれる。そう思ったら急に苦しいくらい胸が一杯になって、



      「敦賀さん、大好き…」



       と、またも考えなしに口走ってしまった。

      すると敦賀さんの瞳の奥がカッと燃え上がって、男の人が本気で欲情する顔に半ば陶然としながら私は敦賀さんの

      熱を受け止める。

      繋がった部分から一つに溶け合ってしまえる気さえした。



      「つ、るがさっ……つる、が…さんっ」

      「っく、」

      「あっあっあぁぁぁーーーっ!!」



      達する度に身体を入れ替え再び身体を繋げあう。

      何度も何度も何度も。

      求めて求められて、そして…

      本気になった敦賀さんはもう無理だと懇願しても、縋りつく手に力が入らなくなりただ揺すぶられるだけになってもなか

      なか離してくれず、結局最後には目を開けているのか閉じているのかそれすらも判らなくなるくらい朦朧としてしまった

      私は、深く愛される幸せに酔いながらも思った事そのままを口にするのはやっぱり控えた方がいいかもしれないと少し

      だけ反省したのだった。






      ※※※※※※






      「大丈夫ですからもう」



      二人してたっぷり2時間近くバスルームに籠もっていたので湯当たりしてしまった私は、着替えも水分補給も敦賀さん

      に手伝ってもらわなければならなくて、恥ずかしいやらこそばゆいやら。

      その原因たる張本人は今は私を抱き枕のように腕に抱えながら心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

      その時、部屋の時計が12時を告げる音を奏でた。

      やだ、どうしようっっ だるまや に連絡入れてない!無断外泊なんかしたら女将さん達に心配かけちゃうのに…



      「あぁ、それなら社さんが電話してくれてるから大丈夫だよ」



      落ち着き払って敦賀さんが言った言葉に私は首を傾げる。

      社さんが? 何で??



      「うん、それが…その、俺がオフの前日にキョーコちゃんと二人で過ごしてそのまま普通に帰すわけがないって…ね」



      あ〜…気を回して下さった訳ですね。 は、ははははは……

      次に顔を会わせた時の社さんのニンマリした顔が目に浮かぶわ。

      うぅぅ…ハズカシイ。

      敦賀さんも苦笑いを浮かべている。



      「あの人は俺とキョーコちゃんで遊ぶのがすっかり気に入ってしまっているからね。でもおかげでこうして…」



      敦賀さんの顔が甘く蕩けて…



      「…キミを独り占めできる」



      う、その笑顔でそんな風に言うのは反則です敦賀さん。

      やさしく頬を撫でてくる手が心地よくて、ずっとこうしていたくなる。

      だったら……良いんだよね。怖がらずに素直に甘えても。



      「それじゃあ明日は私が敦賀さんを独り占めします」



      二人でいられるのが嬉しいのは貴方だけじゃないんだから。

      そう言って見つめ返すと、敦賀さんは本当に嬉しそうに笑って再びキスの雨を降らせてくれた。

















      End







墓穴堀りキョーコとセクハラ大魔王・敦賀蓮のお話。

結局晩ご飯は食べず仕舞なのでこの後、お腹が空いたキョーコのために蓮は
深夜でもやってるケータリングサービスに電話する事になるのです。
で、翌朝は寝過ごして結局キョーコが作るのはブランチのみで、余ってしまった食材は、

「俺は自分では料理はから、冷蔵庫の中の物が傷んじゃう前にまた作りに来てね」

などと次にキョーコがマンションに来る口実に利用されるのです。
恐るべし、敦賀蓮の口車…… (笑)




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